
『物価とは何か』
渡辺努著/講談社選書メチエ/Kindle日替りセール499円(5pt還元、通常期2090円、紙の本の価格2145円)
簡潔なタイトルだが、補足するなら「物価はどう決まるか、誰がどうやって決めているのか」を語っている。ここで言う物価とは個別の商品の価格ではなく、世の中のあらゆる商品の集合体のことを指しており、著者は個々の価格と全体の物価の関係を蚊と蚊柱の関係に例える。
個々の価格は企業がコストや利益や売れ行きを勘案して決めているのに対し、その集合体である物価は貨幣価値とインフレ率に相関し、これらは失業率や貨幣供給などと相関している。その関係を理論化するのがマクロ経済学であり、これまでマクロ経済学の本は読んだことがなかったので、新鮮だった。お金の話は誰しも興味があるが、マクロ経済はミクロ経済の足し算ではないため、なかなか馴染みにくいものだ。
あとがきに書かれているように本書はマクロ経済学の教科書ではなく、著者自身の主張も色濃く反映されている。元日銀職員で現在は東大経済学部の教授という肩書で相当な説得力を感じさせるが、庶民感覚からはやや理解しにくい部分もあった。著者が提唱する「物価水準の財政理論」は政府の徴税権が貨幣価値の裏付けだと述べるが、いまいち飲み込みづらかった。
物価は貨幣価値の裏返しであり、貨幣価値が下がるのと物価が上がるのは表裏一体だ。つまり物価を安定させるにはインフレやデフレを制御する必要があるが、現在の日本銀行がインフレ率をコントロールする手段として現在用いられているのは「トーク」だという。政策金利の上下もあるが、日銀総裁の談話発表によって金融業界の専門家を動かすことがメインだという。そう説明されると定期的に公表される談話の意味が理解できた気がする。他にもなるほどと思う部分は多かった。
これを読んだからと言って自分の経済活動が変わるものではないが、政府や日銀のやっていることが少し理解できた気がする。