2019年11月15日

電子書籍『三体』

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『三体』
劉慈欣作/大森望・光吉さくら・ワンチャイ訳/早川書房/Kindle版1847円(18pt還元、紙の本の価格2052円)

 最近ベストセラーになっている中国のSF小説。以前読んだ『折りたたみ北京』の中に本作からスピンアウトした短編が収録されているが、本作はまさに本格SF長編だ。舞台が中国で、時代が文化大革命から21世紀に至るまさしく「現代」であるという点が新しいが、作品から感じる雰囲気はアシモフやハインラインが活躍したSF黄金期のものに近い。

 あとがきでみ指摘されているが、科学考証については必ずしも完全ではなく、ハードSFよりはエンタメ性を重視していると感じられる。特に後半に描かれる宇宙人の描写はどうかと思う。とはいえあくまでもフィクションなのだから、許容範囲だろう。

 本作は壮大な三部作の第一部にあたるとのこと。中国ではすでに出版されている第二部と第三部の日本語版が出たら読みたいと思う。
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2019年10月19日

電子書籍『経済学者 日本の最貧困地域に挑む』

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『経済学者 日本の最貧困地域に挑む―あいりん改革 3年8カ月の全記録』
鈴木亘著/東洋経済新報社/Kindle unlimited(通常価格2257円、紙の本の価格420円)

 橋下徹が大阪市長として打ち出した西成特区構想の推進役として抜擢された著者の奮闘記。個人的に橋下氏のパフォーマンスは好きではないが、停滞する状況を前に進めるリーダーシップのあり方としては参考にすべきものがある。

 住民、病院、NGO団体、活動家など西成地区に関与している様々な立場の人々と、区役所、市役所、県庁、警察といった官公庁の役人たち。複雑な意図と建前と本音が絡み合っているこの問題は、ただ正論を説くだけでは何一つ前に進まない。過去に行われてきた手法の問題点を踏まえ、著者はとにかく上から押し付けることは絶対にしないように配慮して、多くの人々に会って話し、様々なアクションを起こしていく。

 正論を説くだけでは進まないというのは、この街だけの話ではないだろう。社会問題でも会社の中の話でも、人を動かすのは理屈ではなく気持ちだ。正しいことを言っているのに相手が動いてくれないと憤慨するのではなく、気持ちを動かすためにどうしたらいいかを考え、著者のように行動することを見習いたい。
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2019年10月12日

電子書籍『日本人が海外で最高の仕事をする方法』

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『日本人が海外で最高の仕事をする方法 ― スキルよりも大切なもの』
糸木公廣著/英治出版/Kindle月替りセール864円(通常期1555円、紙の本の価格1728円)

 自己啓発本みたいなタイトルだが、ソニー社員時代に20年間で9ヵ国の海外駐在を歴任した著者の経験を回顧録的に紹介するもので、単なる観念論ではない説得力がある。国や時代によって具体的な方法は異なるが、基本となる考え方や姿勢は共通であろう。

 現地社員や顧客との関係、日本の本社との関係、家族の生活、結局すべて人間関係だ。マネジメント職として赴任する人だけでなく、工場や営業の担当者クラスであっても同じ。異文化に受け入れられるためには自分から異文化にのめりこみ、信頼関係に繋げていくことが大事。

 私自身は今2ヵ国目の海外赴任だが、共感することも多いと共に、見習いたいと思うエピソードも多数あった。理屈ではなく具体的なエピソードを中心に紹介されているのでイメージしやすく、これから海外赴任するという人が読むのにはとても良いだろう。
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2019年10月04日

電子書籍『ウイグル人に何が起きているのか』

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『ウイグル人に何が起きているのか 民族迫害の起源と現在』
福島香織著/PHP新書/50%ポイント還元Kindle本夏のセール800円(400pt還元、紙の本の価格950円)

 中国の内陸にある新疆ウイグル自治区で行われていると言われるウイグル民族の弾圧。イスラム教徒である彼らに宗教的行為を禁止し、「再教育施設」という名の強制収容所に送り込んで洗脳や拷問が繰り返されているという。その歴史と現在を中国に詳しいフリージャーナリストの著者が丁寧に解説する。

 前半、あまりにひどい弾圧の描写に気分が悪くなり、読み進めるのが辛かった。ナチスのユダヤ人迫害よりもひどいとまで言われるその過酷な仕打ちは、ウイグル民族をこの世から消そうとしていると言っても過言ではない。実際、このまま続くことを国際社会が放置すれば、あと1〜2世代でウイグル民族は事実上滅亡するだろう。

 では中国政府はなぜそこまで徹底的に弾圧するのか。直接的な引き金になったのは習近平殺害を狙ったとされるテロが起きたことだが、そこに至るまでの百年以上に及ぶウイグル民族の歴史と中国共産党の政策、そして国際社会の関与の仕方が複合的に影響している。

 最近では国連でもこの問題が取り上げられるようになったが、中国は国際経済に占める影響力を背景にゴリ押しするだろう。イスラム教国家さえも経済重視で中国にすり寄っているのは情けないと思うが、仕方ないのかもしれない。彼らの本音を聞いてみたいところだ。
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2019年09月23日

電子書籍『死体格差』

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『死体格差 解剖台の上の「声なき声」より』
西尾元宏著/双葉社/Kindle日替りセール599円(通常期1089円、紙の本の価格2980円)

 兵庫県内のある大学の法医学教室で日々死体の解剖を行っている著者が、その経験から感じたことを語っている。過去に読んだ『死体に聴け』や『死体は今日も泣いている』などと同ジャンルの本だが、本書は死因を通じて社会のあり方、特に様々な意味での「格差」に着目しているところが特徴だ。

 生前の生活や経済状況によって生じる死因の格差もあれば、地域による死後の扱いの格差も含まれる。7章からなる本書の構成は体系的なものではないが、著者が長年の経験から感じたことを様々な切り口から吐露しているという印象だ。

 死は誰にでも訪れるものでありながら、普通の人が死体とじっくり接する機会は滅多に無い。著者が大学の文系学部で講義した時も興味を持つ学生が少なくなかったというように、興味を持つ人は多いと思う。
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2019年09月19日

電子書籍『意識の川をゆく』

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『意識の川をゆく 脳神経科医が探る「心」の起源』190803購入
オリヴァー・サックス著/大田直子訳/早川書房/Kindle版1349円(紙の本の価格2268円)

 脳神経外科医にしてエッセイストのオリヴァー・サックス最後のエッセイ集。人間の感覚や心について、本人を含む多くの研究者たちによる議論の歴史を紹介している。そもそも心の正体はまだ解明されていないので、結論は出ないわけであるが、それでも心にまつわるエピソードはどれも興味深い。

 本人の死後にまとめられたせいか、書籍全体の構成はやや雑な印象を受けた。ひとつのテーマについて整理されたというより、晩年のサックスがどのような話題に興味を持ち、どのように思索していたかを紹介しているようだ。

 感覚や記憶や意識というものが、私たちが思っているほど確固たるものではなく、常に間違ったり偽ったり変化したりする可能性があるものだということは、(本書以前の著作でも語られているが)多くの人がもっと知っておくべきことだと思う。
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2019年09月15日

電子書籍『労働者階級の反乱』

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『労働者階級の反乱〜地べたから見た英国EU離脱〜』
ブレイディみかこ著/光文社新書/光文社50%ポイント還元フェア885円(443pt還元、紙の本の価格886円)

 2016年にイギリスでEU離脱の是非を問う投票が行われ、ブレグジットが決まった。離脱に票を投じた有権者の多くは労働者階級だったと言われ、アメリカでトランプ大統領を支持した階層との共通性が指摘された。しかし、長くイギリスに在住し労働者階級の人々と交流してきた本書の著者は、そのような単純な見方を否定する。では、「イギリスの白人労働者階級」とはどのような人々なのか。

 本書の大半は「イギリスの白人労働者階級」がたどってきた歴史を紹介することに費やされている。ブレグジット投票について深く知りたいと思った読者には不満かもしれないが、今までほぼ知る機会のなかった人々のことなので、興味深く読めた。

 著者がインタビューした人々は、決して目先の利益だけを追ったり偏狭なナショナリズムに走ったりしているのではなく、政治や社会のあるべき姿について考え、それぞれ自分の意見を明確に語っている。移民が増えている職場で働いているからこそ、移民と接する機会もホワイトカラーより多い。離脱賛成票を投じた人であっても、身近な移民に排他的な態度を取ったりしているわけではない。

 黒人や女性やイスラム教徒と違い、白人男性労働者は社会の中で「地べた」にいるにも関わらず弱者として扱われることは少なかった。そのため、政治が自分たちの声を聞いてくれている、自分たちのことを大事にしてくれているという感覚を持てない不満を抱いている。その結果が、エスタブリッシュメントに対する反旗としてブレグジットの結果を招いたと考えられる。

 欧米の民主主義が危機に瀕していることはしばしば指摘されているが、その原因の中心はこれと同様、エスタブリッシュメントが見逃してきた人々の不満にあるのだろう。そして彼らの不満は決して無知蒙昧ゆえのものではないのだ。
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2019年09月14日

電子書籍『しあわせの理由』

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『しあわせの理由』
グレッグ・イーガン著/山岸真訳/早川書房/Kindle版632円(6pt還元、紙の本の価格994円)

 アシモフやハインラインが活躍しSFの黄金期と呼ばれる1950年代の作品を多く読んできたが、その時代はいわゆるスペースオペラが中心だったのに対し、本作の著者グレッグ・イーガンの描く世界はもっとずっと身近だ。ワープ航法を駆使しして広い宇宙をめぐるような話ではなく、現在の技術の延長に作られる近未来の文化や社会の話となっている。

 本作は表題作を含む9篇の中短編からなるアンソロジーである。個々の作品の紹介はしないが、どの作品も穏やかで淡々と話が進み、結末も派手なものではない。いわば、世界観そのものを味わうのが醍醐味と言える作風だ。SF的な技術面だけでなく社会のあり方といった面においても作者の想いが伝わってくる。それを楽しめるかどうかは読者を選ぶかもしれないが、私は好感が持てた。
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2019年09月04日

電子書籍『アラフォーになってようやく気づいたんだけど、私、たぶん向いてない。生きることに……』

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『アラフォーになってようやく気づいたんだけど、私、たぶん向いてない。生きることに……』
甘木サカヱ著/eロマンス新書/Kindle unlimited(通常版618円)

 「よく眠りたまに色々考える主婦」という名前でTwitterに多くのフォロワーを持つ著者が、その投稿をベースに多々追記したコラム。「人間関係に向いてない」「家事に向いてない」「おしゃれに向いてない」等々、色々なことに「向いてない」というテーマに沿って、関連ツイートとそれにまつわるエピソードがまとめらている。Twitterは以前からフォローしているが、Kindle unlimitedに入ったので本も読んでみた。

 生きることに向いてないとは言いつつも、こじれた幼少期から自虐的な青春時代を経てそこそこちゃんとした旦那さんと結婚して、義父母と同居で二人のお子さんを育たてているのだから、結果的には立派なものだ。鬱病を患っていた時期もあり、今も気を抜くと落ちるみたいだが、低空飛行でも墜落しなければいいと思う。

 ダメ人間だけど、ダメ人間なりにがんばって一応まっとうに生きている、ダメ人間でも生きていくことはできるという事実をさらけ出すことで、自分はダメ人間だと悩み苦しんでいる人に希望を与えたい。そんな気持ちが伝わってくる、優しい本である。
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2019年08月16日

電子書籍『世界史を「移民」で読み解く』

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『世界史を「移民」で読み解く』
玉木俊明著/NHK出版新書/Kindle日替りセール399円(通常期790円、紙の本の価格842円)

 近代における移民の話かと思ったら人類の歴史全体を振り返る移民、移住する人々の歴史から見た歴史の話だった。取り上げられているテーマは目次を引用すればわかるだろう。最近は近代の移民に関心があるため、本屋で見つけていれば買わなかったもしれないが、読み物としてはそれなりに面白かった。

第1部 人類・民族の「大移動」とは何だったか
 第1章 文明はどのように伝播したか
 第2章 太平洋を渡った人々の謎
 第3章 誰がヨーロッパ文明をつくったか
 第4章 遊牧民から文明の興亡を考える
第2部 世界の「交易」はいかに結びついたか
 第5章 ヨーロッパを包囲したムスリム商人
 第6章 商業の民として活躍したヴァイキング
 第7章 ポルトガルは大航海時代の敗者ではない
 第8章 異文化間交易圏としてのアジア
 第9章 黒人とユダヤ人が起こした「砂糖革命」
第3部 ヨーロッパ繁栄は「移民」もたらしたか
 第11章 大英帝国に拡散したスコットランド人
 第12章 ヨーロッパ人はなぜ植民地に渡ったか
 第13章 世界史のなかのヨーロッパ移民問題

 新書で3部13章というのは細かく分け過ぎな気もするが、その分ひとつの話が凝縮されて、エッセイ集のような感覚で読めた。
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