2018年07月06日

電子書籍『町長選挙』

chouchousenkyo.jpg
『町長選挙』
奥田英朗作/文春文庫/50%還元文春祭り559円(280pt還元、通常期559円、紙の本の価格605円)

 ドクター伊良部シリーズの三冊目。「オーナー」「アンポンマン」「カリスマ稼業」「町長選挙」の五作を収録。最終話の発表からすでに10年以上経っているので、これが最終巻だろう。

 最終話は珍しく伊良部とマユミが病院を出て離島で“活躍”する。最初はただの飾りに過ぎなかったお色気看護部のマユミが、どんどんキャラ立ちして重要な役割を担うようになっているのが面白い。この人を主人公にしたスピンアウト作品があっても良さそうだが、あるのだろうか。

 一冊目が各種の症例、二冊目は職業をテーマにしているようだったが、三冊目では実在の人物をモデルにした作品が続く。具体名は挙げないが、あからさまに誰をモデルにしているかわかる人物描写なので、クレームがつかなかったか心配だ。ただ実際、モデルになった人々は多かれ少なかれこういう病的な面はあるだろうと思う。あんな立場で日々暮らしていたら、正気ではいられないだろうから。
posted by #10 at 23:00| Comment(0) | 書籍 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年07月04日

電子書籍『大統領の演説』

daitouryounoenzetu.jpg
『大統領の演説』
パトリック・ハーラン著/角川新書Kindle版/50%OFF以上ビジネス書フェア443円(通常期797円、紙の本の価格886円)

 ひらたく言えばスピーチ技術のノウハウ本。実際のアメリカ大統領の演説を分析し、そこで使われている技術を解説している。大統領になるためには有権者に選ばれる必要があり、そのためにスピーチは非常に重要だ。だから歴史に残る名スピーチが数多く残されている。

 日本の場合、首相は国民の直接選挙ではなく、基本的に与党の党首が選ばれるものなので、そこでスピーチ技術は必要とされない。選挙以外の場でも、スピーチの技巧によって評価が決まることは多くない。日本に名スピーチが少ないのは多分そのためだろう。

 ヒトラーが演説の名手だったことからも、時としてうますぎるスピーチは間違った方向に扇動する危険もある。スピーチを重視することが一概に良いとも言えない。とはいえ、自分が技術を身に付けることにデメリットは少ない。

 本書で取り上げられているスピーチはそれぞれ劇的な背景を持っており、並の人ではそこでスピーチすることにはならない。ちょっとした式典や冠婚葬祭の挨拶程度に活用できるかどうかは微妙だが、読み物としては面白かった。
posted by #10 at 23:00| Comment(0) | 書籍 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年06月30日

電子書籍『ウイルス大感染時代』

uirusudaikansen.jpg
『ウイルス大感染時代』
NHKスペシャル取材班、緑慎也著/KADOKAWA・中経出版/Kindle科学・テクノロジー本フェア810円(通常期1500円、紙の本の価格1620円)

 2017年1月14日に放送されたNHKスペシャル「MEGA CRISIS 巨大危機 脅威と闘う者たち 第3集 ウイルス“大感染時代” 〜忍び寄るパンデミック〜」を書籍化したもの。制作者が何を考え、取材をどのように進めたかといった舞台裏の話も出てくるが、基本的には番組の内容を書籍にしたものと考えて良いと思われる。

 新型インフルエンザなど大半の人が免疫を持っていない感染症が急激に広まった場合、対策を怠れば何十万人という犠牲者が出る可能性がある。日本は島国で比較的安全と思われがちだが、人や物の往来はこの数十年で激増しており、遠くアフリカや南米で発生した新型感染症がいきなり日本に持ち込まれることもありえる。飛行機が地球を半周するのに1日とかからないし、たった一人の感染者からあっという間に広がるのがパンデミックの怖いところだ。

 本書が指摘するリスクにおいて重要なのは、日本人の危機意識が低すぎるという点だろう。2003年SARS流行や2009年の新型インフルエンザ流行の際は、医療関係者や政府が適切に対応したことや多くの人がマスクをするなど対策を取ったことで、日本国内の被害はわずかに抑えられた。しかしその結果「騒いだ割にはたいしたことがなかった」という印象を持ってしまった人も少なくないだろう。この慢心が次のパンでミックで命取りになる危険があるということだ。

 とは言っても日本人の行動パターンからすれば、よくわからないものに対しては過剰なまでに反応するので、それほど心配ないのではないかと思われる。新型インフルエンザ流行の時は大阪にいたが、電車でマスクをしてない奴は非国民といわんばかりの圧力があった。将来またワクチンも治療法もないウイルスが発生した!と聞けば、やはりそういう反応になるだろうと思う。右へならえ体質が染み付いた日本人の習性は、そういう時に真価を発揮するだろう。
posted by #10 at 23:00| Comment(0) | 書籍 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年06月29日

電子書籍『空中ブランコ』

kuuchuuburanko.jpg
『空中ブランコ』
奥田英朗作/文春文庫/50%還元文春祭り559円(280pt還元、通常期559円、紙の本の価格605円) 

 『イン・ザ・プール』に続くドクター伊良部シリーズの二作目。「空中ブランコ」「ハリネズミ」「義父のヅラ」「ホットコーナー」「女流作家」の5篇を収録。主人公がなんらかの原因で精神的に不調となり、伊良部総合病院の神経科を訪れる。治療なのか趣味なのかわからない伊良部の診察に困惑しながら付き合ううちに、何かが変わってくる‥‥というパターンは変わらない。

 前作では患者の多様な症状に焦点が当てられていたのに対し、今作ではそれぞれの職業が特徴的だ。それぞれ、サーカス団員、ヤクザ、大学教授、プロ野球選手、小説家。小説家の話に出てくるエピソードはもしかすると作者本人の経験かもしれないなどと想像したり。

 病気の話なのに結局病気は治らない場合が多いのも不思議なシリーズだが、心の病というのはそういうものなのだろう。
posted by #10 at 23:00| Comment(0) | 書籍 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年06月23日

電子書籍『電子立国は、なぜ凋落したか』

densirikkokuhanazechourakusitaka.jpg
『電子立国は、なぜ凋落したか』
西村吉雄著/日経BP社/Kindle科学・テクノロジー本フェア972円(通常期1944円、紙の本の価格1944円)

 NHKスペシャルが『電子立国 日本の自叙伝』を放映したのは1991年。振り返ってみればバブルの絶頂期であり、今にして思えば夜郎自大な自画自賛に過ぎなかったかもしれない。日本の電子産業はすでに1985年をピークに凋落を始めていて、今や見る影もない。本書はその原因を厳しく分析している。

 詳細はここで述べないが、おおまかに言えば以下のような結論となっている。まず戦後から80年代までは東西冷戦が背景にあり、日本を西側陣営の一員として育てるべく配慮した米国の経済政策によって、日本の経済発展がお膳立てされていた。しかし冷静構造が消滅すると一転して米国は日本を潰しにかかった。そして21世紀に入ると、世界的に進んだ製造業の構造変化に対応しなかったことによって、日本の電子産業はほぼ消滅することになった。

 政治的な影響についてはある程度仕方のないことかもしれないが、近年いわゆるイノベーションが進められなかった点は完全に自業自得の戦略ミスだろう。ものづくり神話にしがみついて水平分業ができないでいることは以前から指摘されていた。著者は相当前から主張していたらしく、本書の後半には「だから言っただろ」的な恨み節まで見受けられる。

 今後どうするのか…と言いたいが時すでに遅し。日本の電子産業はほとんどが消滅したり身売りしたりして、もはや再起不能だ。自動車や家電はまだ残っているが、同様なことが起こらない保証はない。失敗したという事実を謙虚に受け止め、せめて他の産業で繰り返さないよう教訓を残すべきだ。
posted by #10 at 23:00| Comment(0) | 書籍 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年06月18日

電子書籍『八九六四』

8964.jpg
『八九六四 「天安門事件」は再び起きるか』
安田峰俊著/角川書店/Kindle版1652円(紙の本の価格1836円)

 1989年6月4日、民主化を要求して天安門広場に集まった学生たちを、人民解放軍が戦車まで使って武力鎮圧した。犠牲者の正確な数は不明だが、巻き込まれた一般市民を含め一万人に達するいう説もある。29年経った現在も中国ではタブーとなっており、中国内では公然と議論することが許されない。本書は日本人ジャーナリストが多数の関係者にインタビューした上で、あの事件は何だったのか考察している。

 民主化活動はそこで頓挫したので、その後の中国の政治体制は今も変わらないが、経済面では明らかに発展している。だから活動に対する評価は様々であり、関係者たちの現在も各人各様だ。今も同じ志を抱き続けている人と、すっかり転向した人。ビジネスで成功した人と、極貧の中にある人。中国に住み続けている人と、国を出た人。どの人の言葉からも重みを感じた。

 本書でも少し触れられているが、六四天安門事件は日本の全共闘世代の学生運動に似ていると言われる。日本で武力鎮圧は無かったけれど、エリートである大学生が政府に反発して起こした点や、政治的には何の成果も得られなかったこと、それでも国は発展を遂げ、多くの参加者が転向していったことなどは共通している。

 学生たちが本当に求めていたのは民主化ではなく自由と豊かさだったという指摘がある。中国は共産党独裁のまま、自由は得られずとも豊かさは手に入った。政治の目的が国民を幸福にすることで、国民の幸福がほぼ経済発展に比例すると考えると、最近の日本の政治が必ずしも中国より高い成果を上げていないのはどういうことだろう。

 民主主義は本当に良いものなのか、今後どうしていくのか。私たち日本人もまた、じっくり考える時期に来ている気がする。
posted by #10 at 23:00| Comment(0) | 書籍 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年06月17日

電子書籍『あなたの人生の物語』

anatanojinseinomonogatari.jpg
『あなたの人生の物語』
テッド・チャン作/浅倉久志訳/早川書房/早川書房海外SFセール405円(4pt還元、通常期810円、紙の本の価格1037円)

 2017年公開の映画「メッセージ」の原作になったSF小説。映画は観ておらず、また伝え聞く限り映画は小説度かなり異なっているようだが、小説として非常に興味深いものだった。表題作を含む8作品の短編集で、それぞれがまったく違う趣きを持っている。

 SF小説と言えばジュール・ベルヌに始まりアイザック・アシモフやロバート・A・ハインラインなどが非常に有名だが、彼らの作品とはかなり異なる。古典的なSFは現実の科学技術を延長した先を想像して書かれているのが普通だが、本作は我々の科学とは異なる世界の科学だ。

 例えば呪術が実在し、それを探求する科学者の話。天使の降臨がしばしば起こり、それを受け入れる人々の話。これをSFと読んでいいのか悩ましいほどだが、小説として読んでいる時の面白さは確かにSF小説のそれだ。

 ある意味、まだこういう手法があったのかと驚かされた。この方向性で面白い小説を書くには相当な力量が必要だと思うが、期待したい。
posted by #10 at 23:00| Comment(0) | 書籍 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年06月11日

電子書籍『外国人労働者をどう受け入れるか』

gaikokujinroudoushawo.jpg
『外国人労働者をどう受け入れるか 「安い労働力」から「戦力」へ』
NHK取材班著/NHK出版新書/50%OFF以上ビジネス書フェア400円(通常期780円、紙の本の価格842円)

 私自身が海外駐在という一種の外国人労働者なのだが、逆に海外から日本に来て働いている人々も100万人を超えているという。そんな、日本で働く外国人労働者がどんな状況に置かれているかを紹介し、今後どのように彼らを扱っていくべきか考察する。

 技能実習生という制度を悪用して外国人を奴隷のようにこきつかっている経営者の話は、読んでいて実に腹立たしくなる。しかし、彼らの低賃金労働によって生産される安い商品を買っているなら、消費者である我々もまた同罪ではないだろうか。いわゆる「フェアトレード」は海外生産品に対してだけでなく、国産品についても考えるべき時代が来ている。

 そして、低賃金でなくても人手不足を補うために外国人労働者が必要になるなら、彼らに対する処遇は日本人以上に気を遣うべきだと思う。故郷や家族から遠く離れて、言葉も文化も違う国で働くのは、それだけでも大変なことなのに、しかも将来の保証もないのだから。

 まさに今、国会でもこの分野の法改正が論じられている。日本の人口が減って行く時代の始まりを生きる我々には、新しい労働環境を創造する責任があると感じる。
posted by #10 at 23:00| Comment(0) | 書籍 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年06月04日

電子書籍『世界システム論講義』

sekaisisutemuronkougi.jpg
『世界システム論講義 ──ヨーロッパと近代世界』
川北稔著/ちくま学芸文庫/Kindle月替りセール616円(通常期1026円、紙の本の価格1188円)

 世界システム論とは、世界を独立した国々の集合体と見るのではなく、全体が繋がったひとつのシステムと捉える考え方だ。その上で、近代以降においてなぜ中華文明圏やイスラム文明圏ではなくヨーロッパ文明圏が世界全体を支配するようになったか、オランダやイギリスと言った各時代の覇権国家がどのように成立し衰退していったか、等について説明している。

 いわゆる先進国と後進国で経済発展に差がついた理由については、前者の国民が後者の国民より優れていたとか努力したとかいうわけではなく、ひとつのシステムの中である部分が発展するためには別の部分の発展が抑えられるという仕組みによるものだと位置付けている。ありていに言えば、ヨーロッパはアジア・アフリカと競争して勝ったのではなく、アジア・アフリカを踏み台にして稼いだということだ。まあ、それはそうだろう。

 放送大学の教科書として書かれたものを一般向けに書籍化した本。1章が1回分と思われる量なので読み進めやすかった。こういう本が他にもあれば読んでみたい。
posted by #10 at 23:00| Comment(0) | 書籍 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年05月30日

電子書籍『透明マントを求めて』

toumeimantowomotomete.jpg
『透明マントを求めて 天狗の隠れ蓑からメタマテリアルまで』
雨宮智宏著/ディスカヴァー・トゥエンティワン/Kindle科学・テクノロジー本フェア475円(通常期950円、紙の本の価格1188円)

 着ると姿が見えなくなる「透明マント」をテーマに、そのアイデアの発祥から現代の研究までを通史的に紹介している。透明マントと言えば私は攻殻機動隊の光学迷彩を思い浮かべるが、各地の神話や昔話にも登場する普遍的なアイデアだったようだ。もちろんそれはフィクションに過ぎないわけだが、近年、実際にそれを作ることに繋がる研究が進んでるという。

 著者はこういった本を書くのは初めてとのことで、取り上げられるのは割と雑多なエピソードの寄せ集め感があるが、最終的には収束していく。ハデスの兜などの古典、H.G.ウェルズのSF小説、生物の擬態、映像技術、目の錯覚、ステルス技術、負の屈折率、曲がった空間、等々。

 現時点では特定の電磁波に対して特定の方向から観察した時に透明化するというだけで、人間の眼で見えなくなる透明マントの実現はかなり先になるだろう。しかしこういう研究はなにかのきっかけで急に進展したりするので、侮れない。

 気がかりなのは、透明マントが実現したらどう使われるかという点だ。正直、思いつく用途は軍事目的と犯罪がほとんどではないだろうか。実現する前にその点をよく検討してほしいと思う。
posted by #10 at 23:00| Comment(0) | 書籍 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする