『氏名の誕生 ――江戸時代の名前はなぜ消えたのか』尾脇秀和著/ちくま新書/Kindle月替りセール468円(5pt還元、通常期935円、紙の本の価格1034円)
現在の日本人の名前は、苗字(氏、姓)+名(いわゆる下の名前)という2つの要素から成っている。苗字は英語のFamily Nameに相当し、同じ戸籍の家族は同じ苗字になる。名は産まれたときに親によって付けられ、原則として生涯変わらない。
これは苗字をもたない皇族以外のすべての日本人に適用されている名前の仕組みだが、こうなったのは明治初期の法律によるもので、それ以前はまったく異なる名前の仕組みがあった。本書は基本的に江戸時代の名前の仕組みについて詳しく解説している。
書籍タイトルから予想される「氏名という現在の仕組みが誕生した経緯」については本書の続編にあたる『女の氏名誕生』の方が詳しい。この2冊はタイトルが違うが事実上の上下巻なので両方読むのが良いだろう。
江戸時代以前の名前の仕組みが現在と異なるのは主に3点挙げられる。1点目は構成要素が2つだけではなく、氏・姓・姓名・称号・官名・通称・苗字・名乗・実名など非常に多くあったことだ。現在では同じものを指す氏と姓と苗字も元来は別々に存在した。また、すべての人がすべての要素を持っていたわけではなく、公家と武家と庶民では違ったし、男と女でも違った。
2点目は頻繁な改名だ。現在では結婚で苗字を合わせる以外で名前が変わることはほとんどないが、江戸時代までは結婚以外に様々な場面で名前が変わっていた。位階などは階級が変われば当然変わるし、嫁入りや奉公で他家に入ってそこに同じ名前の人が先にいれば区別するために改名するのが普通だったようだ。また、複数の仕事をする人は同時に複数の名前を持つこともあったという。
3点目は、名前がその人の身分や階級を示す意味を持っていたことだ。庶民であれば功績ある者のみ「苗字帯刀を許される」というように、そもそも苗字があることがステイタスだったわけだが、明治時代から全員が苗字を義務付けられることでその意味はなくなった。
明治維新による改革は、大政奉還により武家から公家へ権力が戻ることでもあった。そのため江戸時代までの武家と公家の名前の仕組みは公家の方法に合わせるような動きもあったようだが、現実にはうまくいかず、結局は完全に新しい仕組みが作り出された。それが現在の氏名である。
氏名は旧来に比べて非常にシンプルな名前の仕組みであり、身分や階級を示すこともなくなった。それでも人は自分の名前に愛着を持つ。その意識はどこから来るのか興味深いところだが、本書でそこまでは触れられていない。