2019年09月19日

電子書籍『意識の川をゆく』

ishikinokawawoyuku.jpg
『意識の川をゆく 脳神経科医が探る「心」の起源』190803購入
オリヴァー・サックス著/大田直子訳/早川書房/Kindle版1349円(紙の本の価格2268円)

 脳神経外科医にしてエッセイストのオリヴァー・サックス最後のエッセイ集。人間の感覚や心について、本人を含む多くの研究者たちによる議論の歴史を紹介している。そもそも心の正体はまだ解明されていないので、結論は出ないわけであるが、それでも心にまつわるエピソードはどれも興味深い。

 本人の死後にまとめられたせいか、書籍全体の構成はやや雑な印象を受けた。ひとつのテーマについて整理されたというより、晩年のサックスがどのような話題に興味を持ち、どのように思索していたかを紹介しているようだ。

 感覚や記憶や意識というものが、私たちが思っているほど確固たるものではなく、常に間違ったり偽ったり変化したりする可能性があるものだということは、(本書以前の著作でも語られているが)多くの人がもっと知っておくべきことだと思う。
posted by #10 at 23:00| Comment(0) | 書籍 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年09月15日

電子書籍『労働者階級の反乱』

roudoushakaikyuu.jpg
『労働者階級の反乱〜地べたから見た英国EU離脱〜』
ブレイディみかこ著/光文社新書/光文社50%ポイント還元フェア885円(443pt還元、紙の本の価格886円)

 2016年にイギリスでEU離脱の是非を問う投票が行われ、ブレグジットが決まった。離脱に票を投じた有権者の多くは労働者階級だったと言われ、アメリカでトランプ大統領を支持した階層との共通性が指摘された。しかし、長くイギリスに在住し労働者階級の人々と交流してきた本書の著者は、そのような単純な見方を否定する。では、「イギリスの白人労働者階級」とはどのような人々なのか。

 本書の大半は「イギリスの白人労働者階級」がたどってきた歴史を紹介することに費やされている。ブレグジット投票について深く知りたいと思った読者には不満かもしれないが、今までほぼ知る機会のなかった人々のことなので、興味深く読めた。

 著者がインタビューした人々は、決して目先の利益だけを追ったり偏狭なナショナリズムに走ったりしているのではなく、政治や社会のあるべき姿について考え、それぞれ自分の意見を明確に語っている。移民が増えている職場で働いているからこそ、移民と接する機会もホワイトカラーより多い。離脱賛成票を投じた人であっても、身近な移民に排他的な態度を取ったりしているわけではない。

 黒人や女性やイスラム教徒と違い、白人男性労働者は社会の中で「地べた」にいるにも関わらず弱者として扱われることは少なかった。そのため、政治が自分たちの声を聞いてくれている、自分たちのことを大事にしてくれているという感覚を持てない不満を抱いている。その結果が、エスタブリッシュメントに対する反旗としてブレグジットの結果を招いたと考えられる。

 欧米の民主主義が危機に瀕していることはしばしば指摘されているが、その原因の中心はこれと同様、エスタブリッシュメントが見逃してきた人々の不満にあるのだろう。そして彼らの不満は決して無知蒙昧ゆえのものではないのだ。
posted by #10 at 23:00| Comment(0) | 書籍 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年09月14日

電子書籍『しあわせの理由』

shiawasenoriyuu.jpg
『しあわせの理由』
グレッグ・イーガン著/山岸真訳/早川書房/Kindle版632円(6pt還元、紙の本の価格994円)

 アシモフやハインラインが活躍しSFの黄金期と呼ばれる1950年代の作品を多く読んできたが、その時代はいわゆるスペースオペラが中心だったのに対し、本作の著者グレッグ・イーガンの描く世界はもっとずっと身近だ。ワープ航法を駆使しして広い宇宙をめぐるような話ではなく、現在の技術の延長に作られる近未来の文化や社会の話となっている。

 本作は表題作を含む9篇の中短編からなるアンソロジーである。個々の作品の紹介はしないが、どの作品も穏やかで淡々と話が進み、結末も派手なものではない。いわば、世界観そのものを味わうのが醍醐味と言える作風だ。SF的な技術面だけでなく社会のあり方といった面においても作者の想いが伝わってくる。それを楽しめるかどうかは読者を選ぶかもしれないが、私は好感が持てた。
posted by #10 at 23:00| Comment(0) | 書籍 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年09月04日

電子書籍『アラフォーになってようやく気づいたんだけど、私、たぶん向いてない。生きることに……』

arafo-ninatteyouyaku.jpg
『アラフォーになってようやく気づいたんだけど、私、たぶん向いてない。生きることに……』
甘木サカヱ著/eロマンス新書/Kindle unlimited(通常版618円)

 「よく眠りたまに色々考える主婦」という名前でTwitterに多くのフォロワーを持つ著者が、その投稿をベースに多々追記したコラム。「人間関係に向いてない」「家事に向いてない」「おしゃれに向いてない」等々、色々なことに「向いてない」というテーマに沿って、関連ツイートとそれにまつわるエピソードがまとめらている。Twitterは以前からフォローしているが、Kindle unlimitedに入ったので本も読んでみた。

 生きることに向いてないとは言いつつも、こじれた幼少期から自虐的な青春時代を経てそこそこちゃんとした旦那さんと結婚して、義父母と同居で二人のお子さんを育たてているのだから、結果的には立派なものだ。鬱病を患っていた時期もあり、今も気を抜くと落ちるみたいだが、低空飛行でも墜落しなければいいと思う。

 ダメ人間だけど、ダメ人間なりにがんばって一応まっとうに生きている、ダメ人間でも生きていくことはできるという事実をさらけ出すことで、自分はダメ人間だと悩み苦しんでいる人に希望を与えたい。そんな気持ちが伝わってくる、優しい本である。
posted by #10 at 23:00| Comment(0) | 書籍 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年08月16日

電子書籍『世界史を「移民」で読み解く』

sekaisiwoiminde.jpg
『世界史を「移民」で読み解く』
玉木俊明著/NHK出版新書/Kindle日替りセール399円(通常期790円、紙の本の価格842円)

 近代における移民の話かと思ったら人類の歴史全体を振り返る移民、移住する人々の歴史から見た歴史の話だった。取り上げられているテーマは目次を引用すればわかるだろう。最近は近代の移民に関心があるため、本屋で見つけていれば買わなかったもしれないが、読み物としてはそれなりに面白かった。

第1部 人類・民族の「大移動」とは何だったか
 第1章 文明はどのように伝播したか
 第2章 太平洋を渡った人々の謎
 第3章 誰がヨーロッパ文明をつくったか
 第4章 遊牧民から文明の興亡を考える
第2部 世界の「交易」はいかに結びついたか
 第5章 ヨーロッパを包囲したムスリム商人
 第6章 商業の民として活躍したヴァイキング
 第7章 ポルトガルは大航海時代の敗者ではない
 第8章 異文化間交易圏としてのアジア
 第9章 黒人とユダヤ人が起こした「砂糖革命」
第3部 ヨーロッパ繁栄は「移民」もたらしたか
 第11章 大英帝国に拡散したスコットランド人
 第12章 ヨーロッパ人はなぜ植民地に渡ったか
 第13章 世界史のなかのヨーロッパ移民問題

 新書で3部13章というのは細かく分け過ぎな気もするが、その分ひとつの話が凝縮されて、エッセイ集のような感覚で読めた。
posted by #10 at 23:00| Comment(0) | 書籍 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年08月11日

電子書籍『認知症の人の心の中はどうなっているのか?』

ninchishounohitono.jpg
『認知症の人の心の中はどうなっているのか?』
佐藤眞一著/光文社新書/光文社50%ポイント還元フェア907円(454pt還元、紙の本の価格907円)

 認知症の人に見られる特徴的な行動のパターンは、その時の心理的状態に関係している。それはどのような心理なのか、介護する側ではなく介護される本人の視点から検証と考察を行い、対応の指針を提案している。

 私の両親も70代後半になり、まだ健康ではあるが今後は・・・などと考えながら本書を読んでみたのだが、自分自身の将来の問題として非常に強烈だった。ボケてしまえば心配事もなくなるだろうという甘い考えは砕かれて、かなり不安になった。

 時間や場所の見当識が失われ記憶が保たれなくなっても、感情はあるのだ。わからないことが多くなれば不安が募る。その心情と結びつけて考えれば、不思議な行動も不思議ではなくなる。介護する側になった場合はそういう点に気をつけることが大切という。

 しかし自分が認知症になったときにどう受け入れるか、こう対処すれば安心が得られるといった方法はない。今それを学んだところで、その時になれば忘れているだろう。この点ばかりは学ぶことによって解決しないので、あらかじめ自分のセーフティネットを準備しておくことが必要だ。
posted by #10 at 23:00| Comment(0) | 書籍 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年08月03日

電子書籍『日本人の勝算』

nihonjinnoshousan.jpg
『日本人の勝算―人口減少×高齢化×資本主義』
デービッド・アトキンソン著/東洋経済新報社/Kindle日替りセール699円(通常期1458円、紙の本の価格1620円)

 著者は日本在住30年になる英国人経済学者で、日本経済の低迷について原因と対策を提言する。その主張というか結論は目次を見ればだいたい分かる。
第1章 人口減少を直視せよ
第2章 資本主義をアップデートせよ
第3章 海外市場を目指せ
第4章 企業規模を拡大せよ
第5章 最低賃金を引き上げよ
第6章 生産性を高めよ
第7章 人材育成トレーニングを「強制」せよ

 読み終えてから目次を見直したが本当に書いてあるポイントは各章タイトルそのままで、あとはその主張の根拠となるデータを並べているものだ。第2章の資本主義をアップデートせよとはLow road capitalismからHigh road capitalismへの移行のこと、第7章のトレーニングは若者だけでなく幹部や経営者まで対象に含めたトレーニングのことを言っている。ここに出てこないキーワードで重要なのは労働分配率を高めることが挙げられる。

 主張の中身はそれなりに説得力があると感じられるが、以下の2つの点が残念だった。ひとつは、「自分と同じ結論に至らない人は考えが足りない」と言わんばかりの不遜な文が頻発すること。もうひとつは、図表の使い方がおかしい所が散見されたことだ。例えば散布図で描くべき図が折れ線グラフになっていたり、グラフにすべきデータが表で示されていたりしている。

 そういう構成や表現の気になる点を除けば良い本だろう。ただしここに書かれていることを実行できるのは我ら下々の労働者ではなく、政府や役所、企業経営者の役割になる。ぜひそういう人に読んでもらいたい。
posted by #10 at 23:00| Comment(0) | 書籍 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年07月29日

電子書籍『野の医者は笑う』

nonoishawawarau.jpg
『野の医者は笑う―心の治療とは何か?―』
東畑開人著/誠信書房/Kindle版1944円(19pt還元、紙の本の価格2052円)

 著者は臨床心理学の専門家だが、タイトルにある「野の医者」とは大学などで正規の教育を受けた医者ではなく、宗教やスピリチュアルに近い手法で「癒やし」を与える治療者たちを言う。特に沖縄にはそういう人が大量にいるらしい。

 言うまでもなく、怪しい人々だ。治療法に科学的根拠など無いし、本当に効果があるか疑わしい。さらに、高額なセミナーを受けて治療者になるなどと聞けば、さらに怪しさが倍増する。

 しかし著者は彼らを研究することで、科学的な心の治療とは何なのかを見つめなおす。体の病気や怪我と違って心の問題は目に見えず、機械で測定することも難しい。そして何より、どういう状態になることが「治った」と言えるのかが曖昧なのだ。

 もちろん、だからといって臨床心理学や精神医学が野の医者と同じだということではない。科学の手法には意味がある。同時に、野の医者には野の医者なりの意味があるということだ。

 私が心を病んでもこういう治療を受けることはないだろう。しかし世の中にはそういう治療の方が合っている人もいる。その点は否定してはいけないと思う。
posted by #10 at 23:00| Comment(0) | 書籍 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

電子書籍『キャッシュレス覇権戦争』

kyasshuresuhakensensou.jpg
『キャッシュレス覇権戦争』
岩田昭男著/NHK出版新書/Kindle日替りセール399円(通常期790円、紙の本の価格842円)

 折しもセブンイレブンが大騒動を起こしているが、日本で突如として「なんとかペイ」が乱立した背景について知ろうと思い、比較的最近出版された本書を読んでみた。タイトルから受ける印象よりかなり深い所まで考察している。

 ユーザーにとってキャッシュレスは「便利な支払い方法」に過ぎないが、店舗や企業や政府にとってはそれ以上の意味がある。その中でも著者が重視するのは個人情報の収集だ。誰がいつどこで何をいくら購入したかというデータが大量に蓄積されれば、マーケティング以外にも様々な活用法が考えられる。

 その活用法として挙げられているのが個人の信用スコアだ。アメリカのクレジットカードでも古くから行われており、最近では中国でもかなり普及している。過去の決済履歴が個人の信用を左右するので、場合によっては新たな格差を生み出す危険もあると著者は警告する。

 また、キャッシュレス決済による取引は第三者に記録が残るので、金額をごまかして脱税することが難しくなるというのも、国がキャッシュレス化を推進する目的のひとつだろう。

 便利さと引き換えに、日々の経済活動がことごとく監視されることを受け入れるか。それは本当に消費者にとって良いことなのか。ただ漫然と使うのではなく、自分が何を「払っている」か意識するこを忘れてはいけないだと思う。
posted by #10 at 23:00| Comment(0) | 書籍 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年07月25日

電子書籍『バレエ・メカニック』

bareemekanikku.jpg
『バレエ・メカニック』
津原泰水作/ハヤカワ文庫JA/Kindle版583円(紙の本の価格713円)

 作品とは関係ない騒動で作者を知ったので試しに読んでみた。独特の文体と世界観は好き嫌いが分かれそうで、最初はとっつきにくかったもののしばらく読みすすめると次第に取り込まれていく気がした。

 全体は三部から構成されており、同じ世界の物語ではあるが部によって全く異なるテイストになっている。一部はオカルトというかファンタジー、二部は私小説、三部は近未来SFという所か。三部に登場するテクノロジーは自分が生きている間にかなり実現しそうな気がした。

 面白かったかと聞かれるとさて何と答えたらいいかわからないが、つまらなかったかと聞かれたらそんなことはないと答える。ただ、これをお勧めしたい相手は私の周りにはいない。
posted by #10 at 23:00| Comment(0) | 書籍 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする