2020年05月29日

電子書籍『「感染症パニック」を防げ!』

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『「感染症パニック」を防げ!〜リスク・コミュニケーション入門〜』
岩田健太郎著/光文社新書/Kindle版847円(8pt還元、紙の本の価格946円)

 タイトルは「感染症パニック」が大きく書かれているが、むしろサブタイトルの「リスク・コミュニケーション入門」が本題と言える。リスク・コミュニケーションは何らかの危機が発生した時に人々に行動を促すための手法で、感染症に限らず広い範囲のリスクについて応用できる。

 第1章が一般的なリスク・コミュニケーションの解説で第2章が個々の感染症の説明だが、分量的には第1章が八割を占めており、プレゼンテーションテクニックのような解説がためになった。

 パニック対策というほど急を要するプレゼンを自分が行う可能性は低いが、一般的なサラリーマンがやるようなプレゼンの場合でも、ここで紹介されているポイントを意識することは有効だろう。

 リスク・コミュニケーションに関して気になったキーワードを並べておく。
 「クライシス・コミュニケーション」時間が限られる緊急時のコミュニケーション。地震後の津波の来襲など、一刻を争う状況で人々をすばやく動かすための方法。
 「コンセンサス・コミュニケーション」時間をかけて全体の合意を得るコミュニケーション。緊急ではないが重大な結果を招く危機に対して有効な対策を講じるための方法。
 「社会構成主義的アプローチ」情報の発信者の持つ方法論と価値観でものごとや方針を勝手に決めて押し付けると受け入れられにくいので、受け手の価値観や感情も尊重したコミュニケーションを図ること。
 「社会信頼アプローチ」情報の出し手と受け手が価値観を共有し相互信頼が生じると情報が信用されやすくなるという考えに基づき、適切な関係を構築することでスムーズなコミュニケーションを図ること。

 これらの考え方を頭に入れておけば、日常生活や仕事の上で誰かに動いてもらう必要が生じた時に役立つだろう。
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2020年05月21日

電子書籍『パンデミックとたたかう』

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『パンデミックとたたかう』
押谷仁、瀬名秀明著/岩波新書/Kindle版770円(77pt還元、紙の本の価格770円)

 2020年5月現在、新型コロナウイルスが世界中で猛威をふるい、日本でも多くの感染者と犠牲者が出ている。本書は2009年に新型インフルエンザが拡大を続ける最中に出版された本で、公衆衛生学の専門家でWHO勤務経験もある押谷教授と、薬学部出身のSF作家である瀬名秀明氏が、対談形式で感染症について語っている。

 通常の医療が個人を対象にするのと異なり、公衆衛生学は社会全体を対象にする。感染した人がどんな症状になるかではなく、感染が人々にどう広がるか、医療体制をどう維持するかを考える。そのため、広く一般市民や政治家、医療関係者等に対して働きかける必要がある。

 本書で重点的に語られているのは、正しく恐れることの難しさと、人々の心理と行動の傾向だ。パンデミックや災害が起こるとパニックを恐れるが、実際にパニックが起こして慌てふためくような人は少なく、むしろ慣れてしまって行動が鈍くなる方が多いという。

 細菌やウイルスは目に見えないので、誰がどのように行動すれば感染拡大が防げるかを専門家が適切に発信することが大切だが、専門家が必ずしも正しく未来を予測できるわけではなく、むしろ頻繁に外れる。現在の技術では仕方ないことで、間違いを修正しながら対策を進めていくことの重要性を理解するべきだろう。

 今年になって頻繁に報道された「感染拡大を遅らせてピークを下げて医療崩壊を防ぐ」といったグラフも出てくる。今起きていることの多くが10年以上前の本書ですでに指摘されているのだ。専門家ではない市民の一人としてどのように情報収集し、どのように心がけるべきか、落ち着いて考えたい。
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オーディオブック『蹴りたい背中』

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『蹴りたい背中』
綿矢りさ作/金丸由奈朗読/Amazon Audible 1コイン(購入価格1182円、紙の本の価格495円)

 第130回芥川賞受賞作。作者は当時19歳で史上最年少受賞と話題になった。本作品の主人公は女子高校生なのでつい作者に重ねてしまうが、実際はどうかわからない。

 クラスでも部活でも友達の少ない主人公と、同じように一人でいるクラスメートの男子との奇妙な交流が、一人称で描写されていく。劇的な展開があるわけではないものの、思春期特有の不安定な心理や説明しにくい行動のため、ハラハラしてしまう。

 一人称形式なので主人公以外の人物の心理は述べられず、セリフや行動だけで示される。それが主人公の孤独さを浮き上がらせているが、現実にこういう気持ちになったとしても、実際は他の子達もやはり複雑な心理を抱えているのだろう。それに気づかない主人公にやきもきしてしまった。
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2020年05月17日

オーディオブック『コーヒーが冷めないうちに』

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『コーヒーが冷めないうちに』
川口俊和作/高田憂希、瀬戸ひかり、大泊貴揮、増田いつか、小林範雄、高橋奈津江、瑞沢渓、菅野えみ、多田啓太、田所陽向朗読/audiobook 1104円(紙の本の価格1430円)

 過去へ行くことができる喫茶店。ただし、面倒なルールがたくさんある。過去に戻っても現実は変えられないし、その席から動くこともできない。タイトルはそのひとつ、コーヒーが冷めるまでに現在に戻らなければならないというルールのことを指す。そんなルールを知ってなお、どうしても行きたいという4人の物語。

 宣伝文句に「4回泣けると評判!」とあるように、涙を誘う展開が多々あるのだが、泣ける展開に持っていくための設定が強すぎる気がする。列挙されるルールもそうだが、こんな重い事情を抱えた人が次々に現れるのはご都合主義というものではないだろうか。

 オーディオブックで聴いた影響もあるが、泣かせる話で登場人物自身がボロボロ泣くのもどうかと思う。その辺りもやや演出がきつすぎた。また、SFではないので科学考証は必要ないとはいえ、ルールの必然性に何の理由付けもないのは消化不良気味だった。
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2020年05月16日

電子書籍『知っておきたい感染症』

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『知っておきたい感染症 ――21世紀型パンデミックに備える』
岡田晴恵著/ちくま新書/Kindle日替りセール299円(3pt還元、通常期770円、紙の本の価格770円)

 感染症について数多くの著作を持つ公衆衛生学者の岡田晴恵氏が2016年に出した新書。取り上げている感染症はエボラウイルス病(エボラ出血熱)、H5N1型鳥インフルエンザ、H7N9型鳥インフルエンザ、SARS、MARS、デング熱、日本脳炎、破傷風、マダニ感染症。

 今まさに新型コロナウイルスが猛威を奮っているが、その対策として専門家が挙げていることはあらかた本書で指摘されている。専門家にとっては昔から当然のことなのだ。同時に、実行するのが難しいことでもあると言えるだろう。

 ウイルス性の感染症の場合、感染してからの治療は対症療法しかないことが多い。従って感染予防を徹底することとワクチンを摂取することが重要となるが、必ずしもワクチンが作れるとは限らない。

 本書で知ったのだが、SARSやMARSも原因はコロナウイルスの突然変異体つまり「新型コロナウイルス」であり、これらにもまだ有効なウイルスが開発されていないという。現在流行している新型コロナウイルスも一度感染して治癒した人が再度感染した事例が報告されているので、コロナウイルスには抗体ができない(ワクチンが作れない)のかもしれない。
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2020年05月07日

電子書籍『音楽嗜好症(ミュージコフィリア)』

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『音楽嗜好症(ミュージコフィリア)』
オリヴァー・サックス著/大田直子訳/ハヤカワ文庫NF/Kindle春のハヤカワ電子書籍祭468円(5pt還元、通常期842円、紙の本の価格1188円)

 脳神経外科医でエッセイストのオリヴァー・サックスが、人間が音や音楽を聴くことについて様々な事例をもとに考察を深めるエッセイ集。以前読んだ『見てしまう人々』が視覚を扱っていたので、その聴覚版という所だ。

 聴覚も視覚と同様に、正常に機能している時はその仕組みが意識されることはない。だが脳に何らかの損傷を受けるなどしてその機能が損なわれた人や、逆に異常亢進した人の事例を分析することで、その本質が見えてくる。

 視覚と同様に聴覚の場合も、耳から入ってきた音がそのまま意識に上ってくるわけではない。目に映る物の解釈が意識以前に行われているように、音の解釈もまた意識以前に解析されている。だから、同じ音でも脳の状態が変わると異なって聞こえるようになる。

 音楽がずっと頭の中で鳴り続けるようになった人、歌いながらでないと行動できない人、音楽を演奏する時だけ尊厳を取り戻す人など、音楽に影響を受けた様々な患者が登場する。どうやら音楽は言語以前に生まれた感覚で、言語を失っても残る原始的な機能らしい。だから動物でも音楽に反応する場合がある。

 著者自身の経験も数多く紹介されているが、羨ましくなるほど多くの経験をされているようだ。書籍全体を通じて何かを明らかにしているわけではないので、あくまでエッセイ集として面白い本だが、読む価値はあった。
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2020年05月06日

電子書籍『もっとさいはての中国』

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『もっとさいはての中国』
安田峰俊著/小学館新書/Kindle本GWキャンペーン647円(6pt還元、通常期924円、紙の本の価格924円)

 中国ライター安田峰俊氏が中国の様々な顔を探った『さいはての中国』の続編だが、前回は8章中6章が中国内の話だったのに対し、今回は7章中5章は中国以外になっている。まさに帯の惹句「こんなところに中国人!」の通りだ。

 中国政府の拡大政策をバックにアフリカで大規模な開発をしているビジネスマン、政府からの迫害を受けて海外に隠れ住んでいる元活動家。カナダで親中活動する政治家もいれば、アメリカから中国政府高官のスキャンダルを発信する富豪もいる。

 今の中国という国は政治的にも経済的にも「激しい」からこそ、溢れ出るドラマが面白くなるのだろう。海外に出ていった日本人にもこんな勢いがあるだろうか?真似したくはないけれど、勢いは見習うべきかもしれない。
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2020年05月05日

電子書籍『ソラリス』

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『ソラリス』
スタニスワフ・レム著/沼野充義訳/早川書房/春のハヤカワ電子書籍祭495円(5pt還元、通常期891円、紙の本の価格1100円)

 1961年にポーランドで出版されたSF小説。邦訳としては1965年の飯田規和氏訳『ソラリスの陽のもとに』が有名だが、今回読んだのは2015年に出版された新訳。訳者あとがきによれば、飯田版はロシア語からの重訳で、ソ連の検閲に対応してカットされていた部分があるため、ポーランド語原著からの直接訳を行ったとのこと。

 海全体が知性を持っている惑星ソラリスを訪問した主人公が体験する不思議な現象がメインとなるが、50年代アメリカのSF作品のようにスッキリした謎解きや結末を期待すると肩透かしをくらう。

 ソラリスが何を目的にその現象を起こしたのかは結局わからず、人類とソラリスのコミュニケーションも成功しない。地球外生命とのコンタクトはそんなに単純ではないという指摘がテーマのひとつになっている。

 独特の海で起こる様々な現象を何ページにもわたって延々と描写される所などは、いかにも映像化向きだという気がした。実際1972年と2002年に映画化されているが、映画の描き方は作者の気に召さなかったようだ。ビジュアルはともかく深淵で複合的なテーマを娯楽映画に収めるのは難しいだろう。
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2020年04月30日

電子書籍『図解 MMT現代貨幣理論の基盤』

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『図解 MMT現代貨幣理論の基盤』
シェイブテイル著/Amazon Services International, Inc./Kindle unlimited(通常価格400円)

 MMT(現代貨幣理論)は最近流行の経済理論で、正直うさんくさい印象が強いが、狂信的なまでに信奉してる人が少なくないようなので勉強のためにとりあえずUnlimited対象の本書を読んでみた。なお著者のシェイブテイルは外人みたいな名前だがどうやら日本人で、特に肩書があるわけではない一般人ぽい。

 読後の印象として、MMTは現代の貨幣の実態をある程度まで正しく説明しているが、よく言われる「通貨発行権を持つ国はデフォルトにならない」といった主張には留保が必要で、これを信じて極端な運用を行うのは危険だと感じた。

 金本位制が廃止された後の管理通貨制度において、貨幣の価値は何によって裏付けられているのかは長年の疑問だった。しばしば「国の信用によって裏付けられている」とか「みんなが貨幣を貨幣と信じて使っているから貨幣たりえる」といった説明を見かけるが、どれもいまいち釈然としない。

 MMTで説明される「万年筆マネー」はこの点をかなり納得できる形で説明している。銀行が貸出しをすることで市場に貨幣が供給され、国の借金は民間の預金になる。これは恐らく実際の貨幣の流れを上手く説明しているだろう。

 しかし、「日本政府が日本円で発行した国債を償還するにはさらに国債を発行すれば済むので、デフォルトになる心配はない」という主張には条件がつく。本書の最後で簡単に触れられているが、実際に通貨発行権を持ちながらデフォルトになった国は存在する。

 それらの国が当時置かれていた状況(政情不安、実質外貨建て、高インフレ)に今の日本は当てはまらないのだが、将来そうなることがありえないような歯止めがあるわけではない。

 これまでも様々な「画期的な経済理論」が現れてバラ色の未来を描きながら、何かのきっかけてで破綻するということが繰り返されてきた。MMTもそれらのひとつに過ぎないという印象は消えなかった。
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2020年04月29日

電子書籍『国のために死ねるか』

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『国のために死ねるか 自衛隊「特殊部隊」創設者の思想と行動』
伊藤祐靖著/文春新書/Kindle月替りセール299円(3pt還元、通常期?円、紙の本の価格858円)

 日本海で北朝鮮工作船を追った経験から自衛隊で初めての特殊部隊(海上自衛隊特別警備隊)を創設し、後に辞職してフィリピンの戦場に生きたという著者が半生を語る自伝。国家とは何か、日本とは何かを考えたものでもある。

 元帝国軍人だった父の行動やフィリピンで出会った戦闘員の話、陸上自衛隊で恐ろしく優秀な隊員のエピソードなど、戦闘のプロにまつわる物語として読むととても面白い。自衛隊の訓練の実態や、米軍の特殊部隊が実はそれほど優秀ではない(にも関わらず米軍が世界最強である理由)といった話など、目から鱗なエピソードも多かった。

 タイトルは、公のために命を捨てる覚悟を持つ意味、その価値のある国家とは何かという話に繋がるが、典型的な右翼の国家観だと思う。ただ、少なくともあと何十年かは地球上から国境がなくなることはなさそうなので、彼のような人物も必要だろう。
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