2008年10月08日

書籍『世界一の映画館と日本一のフランス料理店を山形県酒田につくった男はなぜ忘れ去られたのか』

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『世界一の映画館と日本一のフランス料理店を山形県酒田につくった男はなぜ忘れ去られたのか』
岡田芳郎著/講談社/277P/1700円

 佐藤久一(1930〜1997)の伝記。彼は山形県酒田市の名家に生まれ、20歳から14年間、父が建てた映画館「グリーン・ハウス」の支配人だった。それから劇場経営を学ぶために東京の日生劇場で3年間働いたが、故郷に戻ってからはフランス料理の「レストラン欅」「ル・ポットフー」を経営した。そんな人物だ。

 2008年5月4日付けのfringe blogで紹介されているのを見て購読しました。映画館では淀川長治氏に絶賛され、レストランでは多くの食通を魅了したという。本書では彼の人生について紹介すると共に、彼が自分の店を改善し顧客を満足させるために考案した様々な手法が紹介されている。時代や立場の違いはあっても、同様な営みを行う人々にとって参考になるだろう。

 長いタイトルになっている疑問、なぜ彼はその後の歴史にほとんど名を残さなかったのか。その答は明確にされていないが、エピローグに書かれている、彼が庄内文化賞の受賞者に選ばれなかった理由に等しいだろう。つまり彼自身は映画監督でもシェフでもなく「実際に調理をしたわけではない」ということだ。例えば小説の場合でも、作家の名前は覚えられるが編集者や印刷所の名前はほとんど記憶されない。

 しかし、それらの人々の仕事も作家に負けないほど、読者の最終的な印象に影響を及ぼしている。優秀で情熱的な人物が支配人を務めることによって、世界一日本一と呼ばれるような映画館やレストランを作り上げた佐藤久一の業績は、それを証明していると言って良いだろう。

 いわゆる「裏方」を務める者は、自分の名前が歴史に残ることを目指すわけではない。彼らのやりがいは客の満足そのもの以外にない。逆に言えば、そういう形での自己実現を望む者にはそういう仕事の仕方があるということだ。これは映画館やレストランに限らず、作品を客に提供するすべての仕事に通じるのではないだろうか。
posted by #10 at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 書籍 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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